30代半ばにして【夢】と言われるとなんだろうと考えこんでしまう。
それは叶えたい夢に思いを馳せているわけではなく,【夢なんて見ていいのか】とか【いや,見るものではなく追うものだって何かにかいてあったよな】とか【夢なんて言葉自体が自分の中で叶わないものになっているよな】とか,そんな思いに駆られるからだ。
基本的に【自己啓発書】は苦手だが,この本は【自己啓発小説】というのか,そんな枠として捉えなくてもいいよなとか,たとえその枠だとしても読む人が感動したらそれでいいよなとか思った。つまり,枠を飛び越えてきたということだろう。
【高校生くらいの自分に読ませたい】その表現がぴったりの小説。高校時代のぼくが読んだからといって何かが変わるかというとそれは分からないが,ただただもう一度【夢】っていいなと思えた。そして,この物語の大人たちのようになりたいなとも思えた。
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』概要
もともとは学習塾を創立し,現在では作家活動や講演会を行っているらしい。大多数の人の人生を支えているような人なのか。悩み多き若者に勇気や希望を与えているのか。本当にかっこいい生き方だと思う。どんな内容の講演をするのか分からないが,作品に心を打たれる人はたくさんいるだろう。
数か月前に本屋さんで過去の著作も含め,平積みされていることで知った作家さん。商品紹介のポップや帯には魅力的な(読みたくなるような)言葉で溢れていた。逆に読む気を失せていたが,友達が進めてくれたから読んだ。
読んだ後は,冒頭に書いた通りだ。
これより以下は,ネタバレを含みながら,ぼくがいいなと思った言葉や文章を引用して感想をかきたい。
中途半端な18歳
高校3年ってある意味で,ふるいにかけられる。二分化させられる。
【がんばる者】と【がんばれない者】
部活も学校の授業も,受け身である部分が多く,環境は用意されている。そこにさえ行けば,練習ははじまるし,授業は続く。「めんどくさい」と思っていても,「はやく終われ」と思っていても,「その時できた恋人」のことばかり考えていても,勝手にはじまり,終わっていく。
受験勉強はそうではなかった。塾に行こうが,図書館に行こうが,自らの意思でテキストを開き,ノートに書き,頭を働かせなければ,はじまりもしない。
当時は気づけなかったが,あの18歳の,高校2年の後半くらいから【それまでの人生】のすべてを試されるが如く,人生が加速していく。
それまで何も考えてこなかった人の中でも,【はじめる者】と【留まる者】に分けられる。
高校3年のぼくは【はじめたが,がんばれない者】となった。
おそらくこの人口が最も多いだろう。みんな勉強やりだしたからやらないといけない。親からお金を出してもらうことに感謝も後ろめたさも感じずに。
勉強しているふりは上手になっていく。夜更かしだけでやった気になる。
「勉強した気になる時間」と「勉強した時間」の差がどんどん開く。もちろん>こっちに。
ぼくはそんな高校生だった。「やればできる」とか「がんばればできる」と思っていたのは,「がんばったことが一度もなかったから」
この主人公は立派だ。水泳を中学三年間続けて,高校で書道部に入っただけすごい。それくらいぼくは,中途半端にすらなれない男だった。
そんなぼくに響いた言葉たち。
【本気】になるとは
本気になれば大抵の奇跡は起こるし,本気にならなければどんな小さな奇跡も起こらない。君も本気で自分の人生をかける覚悟ができたら,自分の人生でそのことを経験することができるよ。
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』喜多川泰
漠然と「将来○○になりたい」なんて思うことがあった。それが夢なわけだけれども,それだとただ夢を見ている状態。叶える気なんてない。叶うための努力をしていない。作品の中でも,❝なりたいって言えば,何もしていなくても夢をもっていることになる❞と書かれていて,まさに自分がそれだなと思った。
人によって【本気】はちがうとも思う。ここに書かれている【本気】とは,生半可なものではないだろう。おそらく限界すらないものだろう。時間も忘れそれのみに没頭するような,それも何年間も。それこそが本気というのだろう。それだけの本気で努力しても叶わない人もいる。それが夢なのかもしれない。
目指すと言うだけ言って,心では「どうせ無理」と思ってしまう。その程度の本気では,奇跡は起こらない。
なってからの人生
なるまでよりも,なってからの人生の方がはるかに長いってことをね。その『なってからの人生』を幸せに生き続けるためには,本当の力がなければ続けることができない。そのための力を,それぞれが自分の夢の扉をこじ開ける苦労を経験することで,身につけることができるんだよ。
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』喜多川泰
この台詞の言葉が出てくる流れがとても重要なので,本を読んでいない人は必ず読んでほしい。
夢を描くとき,その職業の自分に【なってからの人生】のことを空想する。良い部分だけを。きらびやかなイメージと共に。
なるまでが夢,なったらゴール,それで終わり,なんて思っている人がたくさんいる。ぼくもそうだ。夢を描くとき,それがゴールのように思っている。ある意味では間違いないのだろうけど,そこからが本当に大変なのに,そのことも考えず,楽に叶える方法を探すことに多くの時間をかける。
本気で自分自身で努力していくことこそ,なってからの人生を続けられるというのに。
いつか来る
やめなければ,その日は来る
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』喜多川泰
努力し続けるといっても,いつまで【続けられる】?
やめてしまえばそれで終わり。
やめなければ,いつか来るかもしれないその日。
どれだけの覚悟をもたなければならないかを教えてくれる言葉でもある。
それまでずっとやめずに続けられるか?と。
自分の道をいくことの難しさ,孤独さ。
❝やめなければ,その日は来る❞という希望にも満ちた言葉だが,作者から覚悟を問われているような言葉でもある。
人間は心のどこかで思う。やめれば楽になる。他のことに時間を費やせる。新しい夢も見つかるかもしれない。そう思っている時点でやめたほうがいいのかもしれないが。
自分との約束
「大人は誰かと交わした約束を守ることで生きている。約束を守らないで生きようとしても今の社会では無理だ。(中略)とにかく約束を破った瞬間に生きていく上で大切な絆を失う。
(中略)だけど,誰かと交わした約束をきっちり守って生きている大人たちも,ある約束は平気で破るって言っていた。」
「それが,自分との約束…?」
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』喜多川泰
他人との約束,取引先との約束,上司との約束,奥さんとの約束,友人との約束…あらゆる他人との約束を守ることで生きている大人も「自分との約束」だけは平気で破ると。
約束を破る人は信用できない。つまり,自分への信頼❝自信❞がなくなっていく。
『自分との約束』たしかに破り続けてきた。今日は3時間勉強しよう!と思ってもしない。筋トレしよう!と思っても3日しか続かない。自分が自分のことを信じられなくなると,夢なんて言ってられない。
『○○という夢をもっている!』って言ってもそれを叶えるだけの努力をしようと❝自分に約束❞しても守れるわけがない。
自分との約束を破り続けることで,守らないことが当たり前になってくる。そのくせ嫌われたくないし,他人からの評価が気になるから,他人との約束は意地でも守ろうとする。
心当たりがある人,たくさんいるのではないだろうか。
ふさわしい人
『僕は努力をする。だから,それにふさわしいものを与えてください』
『秘密結社Ladybirdと僕の6日間』喜多川泰
人は当たり前のように,自分が努力した以上の結果を求める。努力に見合った結果ではなく。
いかに楽してほしいものを手に入れられるか。いかに安いお金で高価なものを手に入れられるか。
コスパやタイパなんて言葉もあるくらいだ。
でもこの言葉はちがう。自分の努力に見合うものを…と言っている。
実際,そうなっていくものだとも思った。ぼくがまさにそう。努力をしてこなかった人間だから,それなりに結果,こんな人間になったわけだ。見合っている気がする。
大学受験の結果もそうだった。受験勉強をし始めたばかりの時にかかげた志望校は,次第にその大学名を言うことすらできなくなるほど現実を知った。その志望校を目指すだけの学力もなければ,努力もしなかったから。そして,その時の自分に見合いそうな第一志望校,第二志望校。補欠だった。合格でもなければ不合格でもない。不合格に限りなく近い位置の中途半端さ。それが物語っていた。
あの時,悔しいという思いがあったのはあったが,心のどこかで❝やっぱりな❞と思った。そんなもんだろうと。滑り止めで受けた大学に進学した。
その後の人生も同じようなことが言える。『自分の人生をどうこうしようというつもりはない。縁に任せる人生だ』なんて努力しないことを正当化している人生だ。
今からでも遅くはないかな。まだ間に合うかもしれないのなら,努力できる人になりたい。それにふさわしい人になりたい。
子どもができて変わった。できる限り,かっこいい父親でいたいのだ。大人になっても成長できるぞというところを行動で示したいのだ。
まだ間に合うかな。
まとめ~自分の人生を振り返る
この小説には,読み手の年齢や状態,気持ちによってさまざまなことを思わせる力がある。
ぼくみたいな中途半端な人生を送ってきた30代からすれば,過去を振り返らせ今後できる限りの努力をしたい!と思わせてくれる感じ。
高校生が読んだらどうだろうか。
『おれも本気になる!夢を叶えるために,がんばる!』となるのだろうか。
実際に聞いてみたい。
今回,引用させてもらった言葉以外にも,本当にたくさんの素晴らしい言葉に溢れている。
自分なりの素敵な言葉に出逢ってほしい。
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