時間をうまく使うことが人の最重要課題になるはずだ。人生とは時間の使い方そのものだといってもいい。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
ぼくたちは,何に時間をつかっているだろう。1日24時間のうち,大半の大人は睡眠に5~8時間ほどは費やしている。仕事に9~13時間ほど。残りの時間は4~9時間ほどしかない。食事やお風呂といった生活に欠かせない時間は1~3時間ほど。これらの隙間の時間に家事を合計0.5~3時間ほどはするだろう。
こうして時間を砕いてみると,いかに❝時間がない❞かが分かる。
ぼくたちには時間がない。
そんなぼくたちは,時間をつくる(増やす)べく,あらゆる努力をしてきた。早起きをしよう、とか,効率的に家事をしよう,とかタイムマネジメントさえすれば時間はつくる(ふやす)ことができると信じてきた。
そうではないと教えてくれるのがこの『限りある時間の使い方』だ。
仕事の効率を上げたいとか,家事や育児を要領よくやって自分の時間を増やしたいとか,そんなことを求めている人は,はっとさせられるだろう。
そんな方法などないのだと教えてくれる。
ぼくは読んでよかったと本当に思えた。
『限りある時間の使い方』概要
この本が革新的なのは,いわゆるタイムマネジメントやタイムパフォーマンの向上をはかるための本とは全くちがうというところだ。
たとえば,効率的に作業し,時間を生み出し,生産性を向上させるかなどの方法論などは一切書かれていない。むしろ逆のことが書かれている。
いかに人生は短いのかということを認めることが大事だ。
目の前にあるタスクをこなし終えることで時間がつくれるはずなのに,効率的になりタスクをこなせばこなすほど,新たなタスクが舞い込んでくる。終わりなどない。増え続ける仕事をなんとか1日の仕事の時間内に押し込もうとがんばっている。
❝生産性とは,罠なのだ❞
思い通りにならない時間
タイムマネジメントやライフハックの技術は,大事な真実を見落としている。
「時間を思い通りにコントロールしようとすればするほど,時間のコントロールが利かなくなる」という真実だ。
手に負えない幼児と同じで,抑えつけてもだめなのだ。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
育休を取得しているからこそ,この言葉は妙に納得できた。
子どもを思い通りに育てたい!なんて思っていないが,心のどこかでそう思ってしまっている時が多分にある。
幼稚園に行く前の準備,遊ぶのをやめて食事をすること,お風呂を入れることなど,子どもは本当に思い通りに動いてくれない。親が思い通りにしようとすればするほど反発する。結果的に余計に時間がかかってしまうことはざらにある。
時間もそうだなと思う。時計を見ながら,今の行動にはどれくらいの時間がかかり,次の行動にうつるための時間はこれくらい確保して…なんて頭の中で瞬時に計算してしまう自分がいる。
時間は使うもの?
時間を「無駄に」すると,なんだかすごく悪いことをした気分になる。やることが多すぎてパンクしそうなとき,僕たちはやることを減らそうとするのではなく,「時間の使い方を改善しよう」と考える。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
時間が生活そのものだった時代から,「使う」ものになったことを指摘しつつ上記引用の言葉を示している。
無駄にしたと思ってしまう感覚も昔にはなかったのかもしれない。時間を【有効活用】なんて言葉さえもバカバカしく思えてくる。
時間をうまく使える人が,いわゆるできる人みたいな風潮はどこの会社にもあるだろう。
どこを生きているの?
こうして生産性ばかり考えていると大事なことを失ってしまうと著者はいう。
今を犠牲にし続けると,僕たちは大事なものを失ってしまう。
今を生きることができなくなり,未来のことしか考えられなくなるのだ。
つねに計画がうまくいくかどうかを心配し,何をやっているときも将来のためになるかどうかが頭をよぎる。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
これももしかしたら,いわゆる仕事ができる人ほどこういったことに陥っている気がしてならない。
毎日のように,【今】を犠牲にして生きている。仕事上だけならまだしも,プライベートまで家庭生活まで子育てにまでこうした感覚で生きてしまっていると気づかされた。
それで何がいけないのだという人もいるだろう。そういう人はそれでいいのもしれないが,ぼくはちがうと思った。
もっと豊かに,自由に今を生きたいと思った。
❝時間を支配しようとすると,時間に支配されることになる❞
なんだかミヒャエル・エンデ作の児童文学の『モモ』を思い出す。
今すぐやる
本当にやりたいことがあるのなら,確実にそれをやり遂げるための唯一の方法は,今すぐに,それを実行することだ。
(中略)
今やらなければ時間はないのだ。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
あれもこれもやらなければならないと思っていると,とめどなくやらなければならないことが舞い込んでくる。
大事なのは捨てること。可能性を狭めること。「すべてはできない」と認めること。
何をやって,何をしないのか。
目の前にあるタスクやら,ちょっとでもやろうかなと思っていることやら,これはやるべきだなと思えるようなことにまで,手を出したら,本当にやりたいことなんてできない。そんな時間はない。
今を犠牲に
この本には,上記のような論点で話がすすんでいく。著者が生産性オタクやTwitter廃人だったことにも触れ,未来のために今を犠牲にしてきたかが語られている。
資本主義に搾取されているのは,もちろんお金だけでなく時間だ。今を生きることだ。自分になる(で在る)ことだといってもいい。
豊かな生き方とは。
自由な生き方とは。
今を生きるとは。
今の生活に違和感や焦燥感をおぼえている人には腑に落ちる内容の本だと思う。
赤ちゃんの❝今❞
息子は,ただ純粋に,そこに存在していた。
わけも分からず投げ込まれた世界で,その瞬間を懸命に生きていた。僕もそこに参加したいと思った。
(中略)
発達が早いとか遅いとか,そんなことを気にしている場合じゃない。時間を有効活用しようと考えるのは,この子を自分の道具として使うことだ。将来に不安を感じなくてすむように,息子にあれこれやらせて心の平穏を得ようとしていただけなのだ。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
この著者がこういった考えになったきっかけは子どもが生まれたことだったという。
これは本当に今身に染みて感じる。親として子どもの将来を考えることは当然であり義務であり責任でもある。ものすごく強い意志だ。だからこそ,子どもに対する権利があると親は思ってしまう。
権利があるということは,自分でどうこうできる権利のことだ。親のいうとおりすれば素敵な未来がまっているよと。裏を返すと親のいうことを守れないのは子ども自身が悪いという思考にも陥ってしまう。
育休を取得している自分でさえも,時間を気にして,子どもの将来のためにたくさん育児本を読んだ。そんなことをしている場合じゃない。子どもとたくさんの時間を過ごすんだ。子どもをたくさん見るんだ。
子どもの目的
子どもは成長するものだから,子どもの目的は成長することだと思われている。だが,子どもの目的とは本来,まさに子どもでいることなのだ。
『限りある時間の使い方』 オリバー バークマン 著 高橋 璃子 訳
トム・ストッパードの戯曲『コースト・オブ・ユートピア』より
【子どもが子どもでいる】ってどういうことだろう?
子どもが成長すると親は嬉しいし,子ども自身も褒められてきっとうれしいだろう。
でも勘違いしてはいけない。親のために成長しているわけではない。成長は結果だ。原因ではない。
成長したい!と思っているわけではない。子ども自身がやりたいことをやったり,友達や大人と関わったり,遊んだりすることで成長しているのだ。
親が成長させてやっているわけでもない。
【子どもが子どもでいる】ことや【子どもらしくいる】ことってなんだろう。親はその答えを外に求めてはいけないような気がする。
自分の子どもをしっかりみて,子どもでいさせてあげることが大事なんだと思う。
ぼくにはそれができる。ありがたいことに育休を取得させてもらっているからだ。
子どもとの❝時間❞を大切にしたい。今しかないのだから。子どもが子どもでいられる時間は。
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