育休中の30代が定年退職した親と関わる中で感じた「何か」を解き明かすため,定年退職者向けに刊行された書籍『定年後 50歳からの生き方,終わり方』を読んでみた。その感想をつらつらと。
育休に入って,定年退職した親との関わりが増えた。関わりというか,会う回数自体が増えた。普段,平日に親と会ってゆっくり過ごすなど,子ども時代にもしたことがない。その際に,1歳の子を連れていくと,親も喜んでくれるし,子どもにとっても良い。
良いとか悪いとかではなくて,定年退職した親はこうやって過ごしているのかと妙に新鮮な気持ちになった。そんな生活をしていて,しばらくした頃,ふと思った。育休は,大前提として,育児と家事を生活の中心に据え,子どもと関わり,家庭の現在や未来に目を向け,そのためにできることを日々していくわけではあるが,ふと思った。
もしかして,定年退職者と少し似ているところがあるのではないか…。
もちろん,同じにしてはいけない。たかが10数年勤務し育休取得をしたぼくと「似ている」と言えば,勤続30年以上も会社や日本社会に貢献してきた方々に怒られてしまう。
では,何が似ていると感じたのか。語弊があるかもしれないし,退職者にしろ,育休中のパパにしろ,様々な状況があるので一概には言えないが,個人的に似ていると感じた部分が以下である。
- 仕事をしていない。
- 家にいる時間が長くなる。
- 奥さんとの時間が増える。
- 「自由」な時間が増える。
そこで,定年退職後の過ごし方や悩みなどについて書かれたいくつかの書籍に30代前半の育休中であるぼくは,手を出してみたのだった。
このブログは,あくまでも読書感想で,誤った解釈をしている可能性があります。本を読んで今の自分が感じたこと,考えたことを書くに過ぎないので,本書の解説文でもなければ,要約でもありませんのご注意を。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』の概要
著者情報
著者情報から分かる通り,同じジャンルのいわゆる「定年本」でも,『70歳の正解』や『80歳の壁』を書いた和田秀樹さんは,精神科医としての視点で身体と心の健康を前提として定年論をまとめてある。
今回,紹介する楠木新さんは,一般企業で長く活躍しつながらも,「仕事」や「働き方」をテーマに取材・執筆をしてきた方なので,実際の長く企業で勤めてリタイアした人にとっては,共感する部分も多いのではないだろうか。
いわゆる「定年本」は,毎年のように似たような内容の書籍が,数多く出版される(最近知りました)。
本を選ぶ際には,帯に書かれたコピーや宣伝文句だけでなく,著者の経歴に注目すると,自分に合った情報と相違ない内容の本に出合えるかもしれない。
紹介文は以下となっている。
人生80年が当たり前になった今、長い自由時間をどう活かすべきか。ライフサイクル的な視点から定年後の「傾向と対策」を考察する。
本書は,著者の長年の膨大な取材によって得られた貴重な生きた資料をもとに,定年後をどう過ごすか,といった視点で書かれているので,育休中のぼくも,30代のぼくも,普段仕事をしているぼくも読んでも非常に参考になる。
本ブログの本記事では,印象に残った「言葉(文章)」を引用し,それについて,考えたこと,感じたこと,今の自分に当てはまることなどを書く。
人生は後半戦が勝負!
「人生は後半戦が勝負」なのである。もちろん他人との比較の意味の勝負ではなくて,せっかく生まれてきた自らの人生を活かすかどうかの勝負である。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 プロローグ 人生は後半戦が勝負
「おわりよければ,すべてよし」とも書かれている。定年退職者からするとものすごく勇気づけられる言葉だと思う。
今,30代半ばになろうとしているぼくからすると,そういえば,昔言われたことがあるな。
「幼少の頃,何をしたかでその後の人生の土台になる」「小中学生で熱中したものこそ,人生の基礎になる」「高校でどれだけ勉強するかで人生の大半が決まる」「大学時代,どれだけ見聞を広げたかで人生が決まる」「新入社員や若手の時代にどれだけ吸収できるかで社内での立場も今後も決まる」「30代で同年代と同じことをしていては,ミドルリーダーになれない!」
いや…,人生ずっと勝負やん!!!!!!!!!!!
きっと40代になれば,またなんかそれっぽいことを言われるのだろう。「~~で人生が決まる!」みたいなことを。
ただ,人生はずっと勝負だし,定年後は,勝負の相手や勝負の土俵が変わってくるのかな,とは思えた。高校時代の勝負は,はじめての自分との勝負みたいな意味合いを感じるし,大学時代の勝負は環境や誘惑との勝負みたいなところもあるような気がする。
結婚前と結婚後では,背負うものも変わってくるので,勝負の規模も変わってくる。というか,年齢を重ねれば重ねるほど,勝負から避けようとしてしまうような気もする。
勝負しなければ,勝ち(価値)もないし,負けもない。勝負をつけてはっきりさせること,白黒つけることをしたくなくなる。何色でもいいじゃんって。曖昧でいいじゃんって,悪い意味で「時間」が解決してくれるのを待つというか。
だからこそ,時間に解決してもらわないようにしたい。自分で手に入れたい。当然,時間が解決してくれたほうが良いことの方がたくさんあったりするけれど。
「したいこと」「すべきこと」「しなければならないこと」の3つのバランス
(中略)しなければならないことがなくなると,一日の区切りが失われる。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第2章 イキイキした人は2割未満?
この言葉は,痛感した。育休中のぼくにとっても,育児中のぼくにとっても。
というのは,基本的に「しなければならないこと」というのは,他人が絡んでいることが多い。やらないと他人に迷惑をかけてしまうし,やればそれは当然のことだからだ。
よく「したいこと」「すべきこと」「しなければならないこと」の3つがバランスを保ててこそ,より良い人生になると聞く。
「したいこと」は,自分だけのため,自分本位のこと,やれば自分が満足できること。
「すべきこと」は,やれば自分も他人も喜ばれるようなこと。「しなければならないこと」との違いは,義務感や強制力があまりないことかもしれない。やらなくてもいいけど,やればプラスになるようなこと。
「しなければならないこと」は,絶対にしないと困ること。困る対象は,相手や他人であるが,もちろん自分も困ることになるようなこと。
仕事をしていようといまいと,大人であろうと子どもであろうと,働き世代であろうと退職者であろうと,この3つのバランスは絶対に大事だと思った。
ぼく自身も,60歳を過ぎた親に対しても,3歳の娘に対しても,「しなければならないこと」を与えたいものだ。
自らが自らに課すことは,せいぜい「すべきこと」どまりだから。ぼくはぼくで,奥さんや子どもから「しなければならないこと」を与えられているし,それを確実にしようと思う。
定年退職者にも,育休中の方にも言えること。「しなければならないこと」を確実にやっていくことが,家族のため,奥さんのため,子どものためになるし,何より,自分のためにもなるのではないだろうか。
たくさんの自分を自分の中に存在させる
在職中は,仕事に注力する自分,仕事以外に関心のあることに取り組む自分,家族や昔の友人を大切にする自分などを,自らの中に同時に抱え込んでおくことが大切である。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第3章 亭主元気で留守がいい
この章は,定年退職者の男が世界一孤独になるといったことをデータや著者の取材をもとに論じてある。社内である程度の地位や立場にいて退職した人が,退職後は「家庭内管理職」となってしまい,夫婦生活がうまくいかなくなることにも触れている。
ただ,ぼくは上記の引用をもとに思ったこと書いてみる。
この本は,「○○な定年にならない(◇◇な定年後にする)ために,定年前に△△しておこう」といったことも多く書かれている。ぼくのような30代の読者にとってはありがたいことである。
これも,在職中に限ったことではないと感じた。自分の中に「何人の自分」がいるのだろう。本当にいろんな自分がいる。しかも同時に。その時の状況や年齢によって,出てくる自分は全然ちがうが。
たとえば,「仕事を優先したい自分」と「家族との時間を優先したい自分」は,同時に存在し得る。それをどちらを優先させるか決める自分も存在する。仕事の内容によっては,仕事を優先する時と家族を優先する時とどちらも在り得るが,結果的に行動にうつした側の自分が,他人にも見える自分になる。
どちらを選ぶにせよ,その3者が混在していることが大事なのではないかと思った。悩む自分,考える自分,検証する自分,葛藤を心に残したい。考えて決める自分でありたいものだ。
「考える癖」をつけておくこと,何にどう時間をかけるのか,その経験値が長く生きていくとプラスになるような気もする。この本と以前紹介した『70歳の正解』に書かれていることを合わせることで,さらに自分なりに生成した知識が知恵となっていく。
ちなみに,同時に多くの自分を抱え込んでおくことが大切である理由を,本書では,「退職した後,会社から離れた時に,人間関係を築こうと思ってもなかなかうまくいかない」からだという文脈で書かれている。
たしかに,「仕事しかしない自分」で30年もいると,いざ家庭に戻った時,何をどうしていいのか分からなくなる。そういった意味でも,自分自身が,今このタイミングで育休を取得し,育児の世界,家事の世界,それにともなって得た時間で読書をたくさんする自分になれたことは,今までいなかった自分を自分の中に存在させることに成功したといえるのかもしれない。
30代では未だ経験していないことがある
今まで自分を支えてきたものが,今度は重荷になってくる。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第4章 「黄金の15年」を輝かせるために
何気なく書いてあったこの言葉に,ぼくははっとした。この言葉自体に,ものすごく惹きつけられたからだ。ただ,この経験は,まだしていないと思う。長く生きれば,自分を支えてきたものが,重荷になることもあるのか,とびっくりした。
たとえば,条件も待遇もやりがいもアップするような会社からヘッドハンティングに合った場面,在籍している会社への恩で新たなステージに立てないといったようなことなのか?
そんな経験をした人にしか分からないことなのだろうと思いながら,この言葉は心に留めておきたいと感じた。
ただ,この第4章では,「黄金の15年間」を60~74歳までとしている。健康寿命が70過ぎだとされている通り,体も心も元気なうちに
せっかく生まれてきたのだから自らの人生を大切にしたいものだ。
という言葉で締めくくられている。
もう一つこの章で好きな言葉を引用しておく。
小さい頃に得意だったこと,好きで好きで仕方がなかったことが,次のステップのカギを握っているケースがある。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第4章 「黄金の15年」を輝かせるために
自分の場合はなんだろうと思った。漫画とかアニメとかかな。世間一般の子どもと変わらない。もっと突き詰めて考えれば,何か出てくるかもしれない。
親とも話してみよう。親なら,きっと自分の幼少を少しくらいは覚えてくれているはずだ。ついでに聞いてみよう。もう60歳を過ぎた親が,幼少の頃,好きだったものは何かと。
子どもをよく見ていよう。自分の子どもが,幼少期である現在,何に熱中しているのかを。いつか教えてあげたいことがたくさんある。そんな今を生きていたい。
いつだって新しい自分を
新しい自分はかけ離れたところではなくて,自身の悩みや病気,挫折,不遇に向き合い,そこから立ち上がる中に存在している。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第7章 死から逆算してみる
過去と未来につながっている自分は,誰とも比較を許さない唯一無二の存在である。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第7章 死から逆算してみる
2つの引用から語りたい。和田秀樹さん著の『70歳の正解』でも書かれていた通り,新しいことをすると前頭葉が刺激され,認知症を遅らせる効果も期待できる。キーワードは,「新しい自分」と「自分だけ」というところか。
新しい自分とは,まっさらなゼロ状態の自分をさすわけではないと思う。今までの自分と確実につながっている。それは,昨日の自分と直接的につながっていることもあると思うが,もしかしたら,大昔の自分とつながっていることもあるかもしれない。
1つ目の引用にある通り,自分にとってのマイナスの出来事は本当につらくて大変で,できれば遭遇したくないものではあるが,その壁を乗り越えた先に,「新しい自分」となるということだと捉えると,どんな経験も決して無駄ではないと思える。
むしろ,そういった,困難,苦労,不遇,挫折と向き合うことこそが,人生を生きれば生きるほど,年を重ねれば重ねるほど,終わりに近づけば近づくほど,大きな輝きを放つのではないか。
だったら,しっかり生きねばならない。
過去の自分を創り,それが未来へとつながっていくならば。
「いい顔」で生きていき,死んでいく
自分の内面的な価値観にあった行動をとっているから「いい顔」になっている。
『定年後 50歳からの生き方,終わり方』楠木新 著 第7章 死から逆算してみる
本書の随所に「いい顔」という言葉がでてくる。著者が多くの人に取材する中で,「いい顔」をしている人から学ぶことが多く,イキイキしている人はみんな「いい顔」しているらしい。
言わんとすることはなんとなくわかる。若かろうが,年を重ねていようが,「いい顔」の人と変わると,こちらも「いい顔」になることもあるし,より良い印象も与えあえる。
無理やりなるのではなくて,自然と「いい顔」になるのだろう。充実した人生を送っていれば,「いい顔」で生きていくことができるし,息を引き取るその瞬間も「いい顔」で看取られるはずだ。
育休中の今も,仕事を復帰してからも,何歳になろうと,「いい顔」でいられるために,今は育児や家事に本気になって,それに伴う多くの出逢いを大切にしていきたい。
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