以前,同著者である橘玲さんの『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』を紹介した。これでもかというほどに,人間の醜い本性が書かれているが,そこから学べることがある。自分はバカであり無知であるという自覚をすることだ。親としても,大人としても,人間としても半人前で,自らの言動に意識を向けることで,より良い大人になるためのヒントがたくさん書かれているからだ。
というわけで,今回も過激な本『言ってはいけない 残酷すぎる真実』を紹介する。実は,『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』のほうが後に出版されている。読む順序が逆だった。今後も,橘玲さんの本を紹介していくつもりだが,できるだけ順番通りに読んでいきたい。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の概要
この本では,タイトル通り【言ってはいけない】真実がたくさんある。ただ,このブログは育休ブログであり,育児や家庭や夫婦について書いているので,関連するところを自分なりの視点でまとめていきたい。
引用もするが,読んだ感想が大半をしめる内容となるため,その点は留意してご覧いただきたい。
どこまでが遺伝なのか
馬鹿は遺伝なのか
依存症・精神病は遺伝なのか
犯罪は遺伝するのか
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅰ努力は遺伝に勝てないのか
上記の引用は,各章をさらに細分化された小見出しを挙げたものである。
衝撃的なトピックが続く。まさに【言ってはいけない】ことが書かれている。【残酷すぎる真実】である。
まえがきの冒頭に著者である橘玲さんは,❝これは不愉快な本だ❞と書いていることからもわかるように,本当に読む人の立場や状況によっては,すべてが全否定され,耐えられない気持ちになるかもしれない。
程度の差はあれ,上記の3つは遺伝(と非共有環境※)として説明されている。しかも,様々な研究者の論文や研究,実験などのエビデンス(証拠)がある。
(※共有環境は子育てなどで,非共有環境は友人関係など)
詳しく知りたい方は,ぜひこの本を読んでほしい。
心拍数の低さから分かること
私たちは,こころとは一見なんの関係もない生理的特徴によって人生を左右されているかもしれない。
それが心拍数(1分間の鼓動の回数)だ。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著Ⅰ努力は遺伝に勝てないのか
心拍数が何と関係しているんだ?と思いながら読み進めていくと驚く。疑いたくなるような話。信じがたい話だ。
子どもの頃の心拍数の低さが,後年の非行,暴力,犯罪の予測因子になることが示された。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅰ努力は遺伝に勝てないのか
心拍数の低い子どもは,恐れ知らずで共感力が低いことや刺激を求めて反社会的な行動に走ることなどが書かれている。
反対に,❝もしその子が知能や才能に恵まれていれば,社会的・経済的にとてつもない成功を手にするかもしれない❞とも書かれている。
こうなってくると,この本の終盤に❝子育ては子どもの成長に関係ない❞と衝撃的なことが書かれるが,子を正しく知ることで,親としての振る舞いや環境の提供などといったことは多く関係してくるように感じるのだが,どうなんだろう。
男と女のちがい
これも子育ての視点から引用したい。子どもが生まれて少し経った頃,子育て経験者の年配の方や先輩から「男の子とちがって,女の子は~。」という話をされる。
そんなにも男の子も女の子もちがうものなの?同じ人間で赤ちゃんなのに?
などと思ったものだが,男女を育てているとよくちがいが分かる(我が家は上の子が女の子で下の子が男の子)。
女の子は生まれつき人間の顔に興味を持ち,男の子は生得的に動くものに興味を持つのだ。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅱあまりに残酷な「美貌格差」
このことについても,網膜の仕組みや細胞などの男女の差によって明快にそのちがいを示してくれている。
そのちがいによって,クレヨンなどを使ったお絵描きでも男の子は黒や灰色などの「冷たい色」を好み車やロケットなどの動きのあるものを描こうとし,女の子は「暖かい色」を好んで使い人物や花などを描く傾向があることも示されている。
このことを知らないでいると,「今は人物を描きなさいと言ってるでしょ!」「これは赤色を使ったほうがいいでしょ!」と男の子に対して,話の聞けない子として異常があると思い込んでしまうかもしれない。
男女の網膜の違いで色や描き方,描きたいものまで違うのだから,比べたりする必要はないし,同じように描くこともできない。
イギリスの心理学者サイモン・バロン=コーエンは,
男性の脳の特徴は「システム化」で,女性の脳は「共感」に秀でていると示した。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅱあまりに残酷な「美貌格差」
男女平等が叫ばれる世の中だが,一体なにが平等なのだろう。
平等ときくと「同じ扱いをする」と思いがちだが,本来,脳の作りも身体の作りも違うのだから,ふさわしい扱い方というか,適切な扱いをしなければいけない。
女性に重い荷物をもたせることが平等ではないのと同様に。
やっぱり子育てはママが一番!?
なぜ女性は「子育て」に惹かれるのだろうか。「進化の過程でそのような行動が強化されたから」というのが生物学からのこたえだ。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅱあまりに残酷な「美貌格差」
女性は,乳幼児に授乳や養育・保護をすると,オキシトシンというホルモンが分泌され,その効果によって【満ち足りた幸福感】を味わうようだ。
人間の構造,進化のプログラムによって,子育ては女性がするものとなったとは言い過ぎかもしれないが,こういったことを踏まえて,男女が幸せに生きていくためにはどうしたらよいかと考えることもたいせつだろう。
現に,現在育休中で子どもと関わり,育児や家事をがんばっているとはいえ,やはり奥さん(ママ)には勝てないなと思うことがたくさんある。
というか勝てるところがないと思っている育休パパはたくさんいるのではないだろうか。
子どもの成長に子育ては関係ない?
上記にも書いたが,ついに育児をしている人にとって最も衝撃的な❝子育ては子どもの成長に関係ない❞ことに触れていく。
子どもの人格や能力・才能の形成に子育てはほとんど関係ない。
(中略)
家庭が子どもの性格や社会的態度,性役割に与える影響は皆無で,認知能力や才能ではかろうじて言語(親の母語)を教えることができるだけ。それ以外に親の影響が見られるのは,アルコール依存症と喫煙のみだ。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅲ子育てや教育は子どもの成長に関係ない
これは,別々に育てられた一卵性双生児を研究した結果分かったことである。
本書では,外向性や調和性,神経症傾向などの特徴を調査したものや,論理的推論力,一般知能などを比較した調査から詳しく述べられているので,ぜひ一読していただきたい。
この信じられない主張は全米で大論争を巻き起こしたようだ。
親である大人も,納得できないと思えることもあれば,思い当たる節もあるかもしれない。
では,「子育てが人の成長に関係がない」のであれば,何が関係しているのだろうか。
それこそが,親も影響できる範囲といってもいいかもしれない。
「友だちの世界」が子どものすべて?
勉強だけでなく,遊びでもファッションでも,子ども集団のルールが家庭でのしつけと衝突した場合,子どもが親のいうことをきくことはぜったいにない。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲 著 Ⅲ子育てや教育は子どもの成長に関係ない
子どもの成長に子育てが関係ないのなら,一体なにが関係しているのだろうと思ったが,それは【友だちの世界】だ。
たしかに,自分の子を見ていても,大人には警戒するが,年の近い子にはすぐ懐く。家にいる時は,わりと親のいうことは聞くが,友だちがいる中では,友だちとの関係を優先する。変なテンションになって全く言うことを聞かなくなることもしばしばある。
こうして考えると,子どもが親との関係よりも子ども同士の関係を優先させていることにも心当たりがある。
だからといって親の子育てが子どもの成長と無関係というのは,まだまだ信じがたい面もある。
みなさんはどう感じるだろうか。ぜひ,この『言ってはいけない』を読んでいただきたい。
本書でも語られていることだが,子どもの成長に大きく関係しているのは,【遺伝と友だち関係】ということになる。
そうなると親ができることは,どんな友だちと付き合わせるか…ということなのだろうか。できるだけ環境を整えるという意味で,私学に通わせる親の気持ちがなんとなくわかった気がする。
それだけ学校という場所が人格形成において重要だともいえる。
自分の成り立ち方
自分という人間が,今のような人間になったのは,【遺伝】と【友だち関係】の影響が大きいことが分かった。とすると,考えずにはいられない。
【自分がどう自分になったのか】ということは,【誰と共に過ごしたか】を考えると分かりやすくなる。
子どもの頃,仲がよかった人と未だに仲いい場合もあれば,ずいぶんと疎遠になった人もいる。自分でこの人から影響を受けたということをよく考えるが,知らないうちに,今は疎遠になったあの人からも影響を受けていたのだろう。
ぼくは,あまり良い子ではなかった。どちらかというと,人ができないことをして,周りから笑われたり,周りを笑わせたりすることが多かった。人を傷つけることも,周りが望んでいるような気さえした。他人ができないことをやることで,自分という人間が友だちの中にいられた。周りの期待に応えることが【自分】だった。自分らしさだった。
こうして書いてみると,友だちによって【自分】が作られたのだと痛感する。そう考えると余計に,親の期待よりも,そういった友だちからの期待に応えようと必死だったような気がする。それで,無茶苦茶なことをしたし,人を傷つけることもした。
自分がどう見られたかというと,おそらく,【人の気持ちが分からない無茶苦茶をする人】だろう。人からそう思われたからこそ,そこからは抜け出せなかった。
抜け出せたきっかけは,高校時代。それまでの小中学校で同じだった人たちの大部分とは離れた。それが大きかった。新しい自分になれた。そこで期待されたのは,クラスのリーダーだった。だから,それに近づこうと,そんな自分になろうと思えたのかもしれない。
と簡単に自分を振り返ったが,また改めてじっくり書いてみたいテーマだ。
親や先祖からどんな【遺伝】を受け継いでいるかは分からないが,自分をつくった【非共有環境(友だちの世界)】については,こんな感じだろう。
そういえば,大学時代,大学にも行かず数か月引きこもって,自分がなぜこんな自分になったのか,ということを振り返っていた時も,友人関係のことを思い出していたことが多かったな。あの時の自分の成り立ちを紐解いていた行動はあながち間違っていなかったのだろう。
まとめ~子育て中の親にも読んでほしい理由
著者である橘玲さんは❝これは不愉快な本である❞としながらも,❝この残酷すぎる真実こそが世の中をよくするために必要なのだ❞とも書いている。
きれいごとで上塗りされた作られた事実だけに目を向け,その裏にひそんでいる残酷な真実を見ようとしない大人にはなりたくない。
ただの大人ではなく,子をもつ親として,この残酷な真実を頭に入れておくだけで考え方や行動が少しは変わってくる気がしている。
だからといって,子にほとんど影響しないのだろうけど。
つまり,自分がどう在るか,そんな姿は子どもに見てもらうことは決してマイナスではないだろう(共有環境である家庭環境では,大したプラスにもならないかもしれないが。)
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